「ウィーンフォルクスオーパー」が来春4年ぶりに来日公演を行うとの記事を目にしました。演目の中には、“オペレッタの王様”とよばれる「こうもり(Die Fledermaus)」も含まれています。「美しく青きドナウ」を作曲したヨハン・シュトラウス2世による、全3幕のこのオペレッタ、オペラに興味がない方も、タイトルくらいはどこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか。
さすが“王様”と呼ばれるだけあって、「こうもり」は他のオペレッタとは別格の扱いを受けていると思われます。
まず、ヨーロッパの主要な街にはオペラハウスが付きものなのですが、幾つかの大きな古都はオペラハウスを複数持っています。ウィーン、ドレスデン、ミュンヘン、ライプチヒなどがその例ですが、通常メインのオペラハウスではオペレッタは上演せず、ウィーンでいえば「ウィーンフォルクスオーパー」(フォルクスは英語のfolk’sにあたります)が、いうなれば二番手のオペラハウスとして、オペレッタを中心の演目を上演します。コメディー中心のオペレッタは、オペラよりも一段低く見られ、ちょっと別の種類として扱われてきた経緯があるのです。(但し、現在ミュンヘンのガーデナープラッツオーパーは、オペレッタだけではなく多くのオペラも上演しています)

Wien_Volksoper

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ところが、例外扱いされているのが「こうもり」で、このオペレッタに限っては、普段はオペラ上演に専念する、いうなれば一番手のオペラハウスでも普通に上演されます。
また、レコード録音に関しても、例えばカラヤン、クライバーといった大御所の指揮者が、当時のスター歌手を揃えた名盤を残しています。
「こうもり」にちりばめられた、数多くの素晴らしい名曲の力によるものなのでしょう。
そんな「こうもり」ですが、実はウィーンでの初演では不思議なことに成功を収めていません。その理由の1つは景気による消費者(観客)の嗜好の変化ではないかと思います。「こうもり」の主な舞台はロシアのプリンス、オルロフスキー主催の豪華なパーティー。まさに飲めや歌えやの派手な騒ぎで、プリンツお好みの高級なシャンパンをドンドン飲み干す贅沢さです。ところが、このオペレッタが初演されたのは1874年春、その1年前の1873年には、現在では「大不況」と呼ばれる、バブル崩壊、株価暴落の経済危機が始まっていました。この経済危機は、欧州に端を発して、アメリカにも影響が及び、その影響が再び欧州に戻ってくる形で1896年まで続きます。
「こうもり」はというと、初公演の打ち切り後、ベルリンでの公演では成功を収めて、その後ウィーンでも受け入れられて、名作の地位を今日まで守り続けています。日本でも、極端な景気の変動の影響で、テレビ番組やドラマの趣向の方向転換が行われることがあります。2世紀前の出来事と共通点が見えるところが面白く感じます。